三県境に行った結果自分が何県にいるか分からなくなった

関東地方には全国的にも珍しい三県境が存在する。
三県境自体は珍しくとも何ともないのだが,ほとんどが山の中・川の底といった到達するのに難がある場所ばかりである。
ところがこの三県境は平地にあるため特別な装備なしにたどり着けるという全国で唯一のスポットとなっている。
存在自体は昔から知っていたが,ある日某SNSで画像を見かけたのをきっかけに車を走らせたのだった。

道の駅かぞわたらせにある道案内

埼玉県加須市にある道の駅かぞわたらせに車を止めて三県境まで歩くことにした。
堤防沿いの何の変哲もない道をゆっくり歩いていくと,やがて田んぼの真ん中に不自然な人だかりがある場所が見えてきた。

小さな水路を介して3つの県境が接している

この写真では栃木県側から撮影しているが,順路に沿って進むと必然的にこの向きから撮影することになる。
どうやら道の駅の時点では埼玉県加須市にいたようだがいつの間にか栃木県栃木市にいるようだ。正直何の変哲もない水路だが行政・司法の管轄が異なる境界線だと思うとなんだか不思議な重みがある気がする。

三県境の真ん中にはこのようなプレートがある

ふとこの水路の真ん中で事件が発生した場合はどの県警が捜査を担当するのかと疑問に思った。
ここを舞台にしたテレビドラマでは合同捜査というある種予想通りの展開となったらしいが,現実に起こったらどうなるのだろう。
そんな事は現実には起こらないだろうと思いつつ調べてみると,なんと実際にこの水路の真ん中で事件が発生していたことが分かった。
先ほどの三県境を象徴するプレートが盗難にあっていたのだ。
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この時は第一発見者が栃木県栃木市の職員であったため,栃木県警察がやってきて現場確認したようだ。
ニュース画像にもうっかり越境しないよう栃木県から現場検証する警察官の姿が撮影されている。
三県境に接するように広場がある。そこでは三県のうちの一つである群馬県板倉町のPRをしているボランティアと思しき方々がこの三県境の由緒について説明していた。
どうやらもともとはこの小さな水路のある場所が渡良瀬川と谷田川の合流地点だったが,明治・大正期の工事により本流が変わってからも境界が元のままになっていたようだ。
周辺では子供たちが水路の上に這いつくばって「三県に同時にいるごっこ」をしていた。
記念撮影をしている人も多く私もせっかくなので誰かに撮ってもらおうと考え近くにいたボランティアのおじさんにお願いした。
ポーズに困った挙句すしざんまいの社長みたいなポーズになってしまったが…。
子供連れが多い中,一人で周辺をうろうろしていた不審な男の頼みを聞いてもらって非常に感謝している。

手前から栃木,群馬,埼玉

道の駅に戻ってから今度は堤防の上に上がって散策してみた。
この写真は栃木県栃木市から撮影したものだが,すぐそこには群馬県板倉町の県境標識がある。
これだけならばよくある光景だが,奥にある道の駅が埼玉県加須市に存在することを考えるとこの周辺の境界の混乱ぶりがよく分かる。
面白がってこの道を行き来していると自分がいまどこの県にいるのか分からなくなりゲシュタルト崩壊ならぬ県境崩壊を起こしてしまった。
自分の足で歩いてきて自分のいる所が分からないという大人になってからはほぼ無い体験に焦りが禁じ得なかった。